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水木 真



   すまん……、ちょっと聞いて欲しい事があるんだ。
 長くなるかもしれないが、最後まで付き合ってくれ。
 とりあえず、順を追っていくと、クラスが一緒になって知り合う。ふとした事で軽く話をする、さらにちょっとした仲介でもう少し話をして、それが段々と増えていくとその内遊びに行く事になる。この時点ではまだぎこちないけれども、お互いの趣味嗜好なんかがちょっとずつ分かり始まる。で、もう二人っきりでも話せない事がないって感じになると、最初の方が緊張するかもしれないが、帰路を共に歩く事だってある。他にも、昼休みに言葉を交わす事だってあるし、実習授業で同じ班になれば一緒に喜怒哀楽を共有する。そんな、普通の友達同士として過ごしていたはずなのに……、月日が経ったある日、周りの誰かがふと、漏らした一言により、途端にぎこちないムードが流れ出してしまい、だが、前々から考えないようにしていた事にようやく向き合えて――決心する事が出来て、そして、その翌日、呼び出して。
 俺は告白した。
 要するに滅茶苦茶青春染みた事をしていたんだよっ!
 ……………いや、その、……何か、すまん。
 まぁ、要するに、彼女が出来た、んだ……、よ。
 初めに長くなるかもしれないとは言ったが、本当に、鬱陶しい位に饒舌なって喋っていたな……。普段は落ち着いていて口数が少なくて……ちょっと怖い、とか言われた事もあったんだが、まぁ、少し舞い上がっているのかもしれないな。自分の中ではなるべく慌てない様にしていたんだが、まぁ、何とかの窓の、未知の部分を発見したとでも思っておくか?
 ――って、そういう問題じゃない。
 話を戻して、結果的に付き合う事になった。翌日、俺らの態度に気付いた周りが散々弄ってきたが、それでも、多分、ようやく望んだ形になれたから嬉しかった。
 なのに、どうでもいい事を考えてしまった。
 それは本当に下らないし、例え思ってしまったとしても悩む様な事じゃあ無いはずなんだ。別に、それまで全く意識していなかったからってどうだっていいじゃないか。
 ……だけど、その事が頭の中に過ぎった途端、何も出来なくなってしまった。
 結局俺は、友達の一人相談をした。
 そして、そいつは次の一言を聞いて、数秒間動かなかった。
「そもそも、恋愛の仕方が分からない。」


「あ、こっちこっち〜」
 駅のプラットホームに、彼女は既にいた。
 人込みの中、俺を見つけると手を挙げたのは自分を逸早く発見させる為だろうが、群集の中でそれをやるとどうなるかは……、分かってはいるはずだろうが、でも、するのが彼女なんだろうな。
「悪い、ちょっと遅れたな」
 こちらも謝罪の意味も含めて軽く手を挙げた。
「ううん、私が少し早く来ちゃっただけだから、大丈夫だよ」
 それでも先ほどの台詞を言わなければならないのが遅れてきた側の義務。と言うか、待ち合わせで女性を待たすな、と何度か釘を刺されたっけ。
「これだけ人が多いと、どちらかがさっきみたいに呼び掛けないと気付かずに擦れ違っていたかもな」
 気だるそうに俺は言い訳みたいな事をした。
「そうだね」
 彼女は他愛ないものだと判断して、すんなり受け止めてすんなり返してくれたのだろう。それなら一向に構わないし、むしろ有難かった。
 ……実は、半分事実だから。
 本当は、俺の方が駅前に早く着いてしまい、適当に時間を潰そうと思い引き返したら、信号の向かい側に見慣れた顔を発見し、しかし、待ち合わせ場所から遠ざかる自分が逃げる様に思えて、何となく怖くなって声を掛けずにそのまま通り過ぎてしまった。
 初めては誰でも緊張するだろう。加えて俺は少し前に述べた通り、そもそも、恋愛沙汰には疎い。幼少の頃からだった気がするし、近年は意識的に無頓着でいた。
 そんな自分が今からデートをするんだよな……。
「あ、もう直ぐ電車来るね」
 アナウンスが響き渡り、人々が徐々にホームに近付き、階段の方からは靴の音がバタバタ聞えて来る。
「……あっ」
 そんな中、彼女は突如、視線の先へ歩き始めてしまった。俺も後を追おうとしたが、直ぐに足を止めてこっちへ戻って来るまで一部始終眺める事にした。
「ごめんね〜」
 直ぐに、帰って来たと同時に突然何も言わずに行ってしまった事に侘びを入れて来たが、むしろそれは俺の台詞だった。
 俺は、白線ギリギリで歩いているお年寄りに対して恥ずかしがらず注意をする事が出来る彼女の姿を好きになったきっかけだと忘れていた。


 家まで送って上げるのが紳士なんだそうで、今は彼女の家路を辿っているが、無言が続いている。
「……今日、楽しかった?」
 先に口を開いたのは彼女だった。そして、質問の内容は俺も言おうと思っていた事でもあった。
「あぁ、楽しかった」
 今日一日で改めて自分の気持ちが分かった。だから、素直な気持ちをそのまま口に出す事が出来た。
「良かった。最初、何だか不安そうな顔していたから……」
 図星過ぎて一瞬時が止まった。鳩に豆鉄砲とはこの事か。
「まぁ、初めてだったし、色々心配だったから……」
 しかし、黙っている訳にはいかない。ただ、今言った事は、嘘では無いが、もう一つの事は言えなかった。
「……本当にそれだけ?」
 ――彼女はエスパーか? まぁ、多少の接触はあったから読み取られていたとしても……って違う。
「……まぁ、その、下らない事を考えていた……」
 隠す事は出来ない。考えていた事を口に出して幻滅されたり悲しまれたりする事への恐れよりも、一緒にいてそういう感情を抱いていた自分が急に情けなくなり、感情を吐き出したかった。受け止めて欲しかった。
「……………そっか」
 俺は初めて自分の奥底にある事を彼女に向けて言った気がした。そして、それを口にした途端、恥ずかしさと同時に、情けなさや辛さ、悔しさに悲しさが体中を駆け巡った。
 それでも、彼女は最後まで聞いてくれた。
「……ごめん」
 言い切った後に出た一言はそれだった。
「今は?」
「好きだ」
 全身の神経が俺を即答させてくれた。
「そっか、それなら良かった……」
 見せてくれたのは笑顔だった。その表情が俺の心を再び掻き混ぜて、それ以上に、ただただ、可愛いと思ってしまった。
「……あ、あの子、危ないなぁ」
 話題を変えたかったのか、彼女の癖がここでも始まったかは判断出来ないが、子供が自転車で道路と垂直に通っていたので注意に行ってしまい、途方に暮れた感じになった。
 そして、ここは住宅街。十字路や丁字路は沢山あり、不用意に走っていると、曲がり角で何かとぶつかる事がある。
 そう、例え見通しが良くても。片方が気付かずに。
「お、おい! 危な――」


「もう何とも無いって」
 そう言って人の心配を無下にした。確かに、もう包帯とかを巻いていないし、遠目からだと事故に遭ったとは見えない。
 しかし、近くで凝視すると、微かに傷跡が浮かんで見える。
「これが犯罪とかに立ち向かった婦警さんの証、なんて感じならもうちょっとマシかもしれないけどな〜」
 なんて、少しでも楽観しようとしているだろうか。
「まぁ、傷物は価値が下がるから、俺は良いけど」
 要するに野菜や果物に例えたのだが、結構酷い事を言っているな、俺。励ますつもりが貶している……。
「元々、寄って来る様な容姿じゃないって」
 理解はしてくれたらしい。しかし、自虐になっている。
「本人がどう思っていても、周りは結構気にするんだよ」
 勿論、逆も然り、と一応付け加えておいた。
「そうだね」
 これ以上触れて欲しくないのか、素っ気無い返事になった。
「でも、軽傷で良かったよ」
 あの時、視界から一瞬姿が消えた時、世界が凍った様に思えた。それでも必死に体を溶かして動かしたが、時の流れがやけに遅く感じ、夢の中にいると少しだけ錯覚した。
「後で聞いたよ、すごく必死だったって」
 もう笑い話に出来るのは嬉しいが、同時に恥ずかしい。
 その時は出血もしていたし意識も無かったから、このまま死んでしまうではないかと焦った。結局、俺は何も出来ず、目の前の惨状を受け入れる事が出来ず病院へ行き、とりあえず自分に出来る事が無いかと看護師さんに、輸血をするなら俺の血を使ってくれ、とせがみ、手術室が出て来た医者が、命に別状は無い、と言った瞬間、緊張の糸が解けたと同時に気分が悪くなって……。
「ホント、よく慌てているよね」
「……え?」
 今、聞き捨てならないって言うか、予想外の発言だった。
「やっぱり自分では、そうは思っていないみたいだったね」
 何か一人で勝手に笑い始めている……。置いてきぼりだ。
「よく、顔に出すまいって必死な顔になっているんだよ?」
 本当かよ……。俺が前に未知の部分だと思っていた所は、盲点だったのか……。余計、恥ずかしくなってきた……。
「ま、これかも面白い表情をよろしくね」
 どうやら彼女なりの仕返しのつもりみたいだ。甘んじよう。



終 




後書小言あとがきこごと

 どうも、水木です。久々に載せました。
 本当は五月辺りの春に書いた物なんですが、載せたのは十一月。
 まぁ、そこらへんは突っ込まない下さい。

 この作品は、文芸部の部長になって初めて書いた物で、
 部長と同時に編集も担当しているので、
 「見易く書こう」
 って最初は思っていたのですが、
 「決めたページにぴったり収まる様に書こう」
 と最終的には至りました。
 その結果、意味不明な苦労をしてしまい、ついでに推敲のし過ぎで自分の書きたい事がかなりぼやけてしまい、しかも、ここで載せる際はそんな事は一切反映されない事を思い出して随分凹みました。
 全ての作品を書き直したいとは思いますが(実際に行動しない事はよくある事なんでスルー)、これは一番書き直したいかもしれません。まぁ、それだけ酷いって事です。

 それと、まぁ、起承転結をきちんとしようって感じですかね。これも、編集云々の考えで出たものですが。
 一応、空白が二行ある所を境に、起承転結が移り変わっています。一応、部誌だとちゃんとページが変わっています。
 最初は二ページで一つだったのが、最終的には一ページで一つ、ととてつもなく短くなりました。
 まとめ過ぎは良くないって事ですね。結が特に足りなさ過ぎる。

 お話自体は何て事ないものです。逆に困りましたが(特に恒例となっている“ルール”が)。
 季節も、なんていうか、ここに載せた時だと丁度良いのは偶然ですかね。
 そして……これで、四作品目です。

 まぁ、確か前回が長過ぎたのでこれはここら辺で。
 ていうか、同時にもう一作品上げるから……ね。

 では。

 ありがとうございました。



2008/11/4 水木 真 

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